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この店で一番高いギターを弾かせてくれ!
値段の高いギターが、必ずしもいいギターだなんて思っちゃいない。
だけど、ロック少年だった俺は、昔から知りたかった。
一体この世で一番高いギターって、どんなギターなんだろう?……って。
俺の夢……。
それは、いつの日か、そいつをこの手で抱きしめたい……って夢だった。
俺の名はヴィン★セント。ギターを愛する風来坊。
果たして、当コーナーは一番高いギターを探し求める男の、いたってまじめなギター紹介コーナーなのである。

 
vol.10 明大前 ハナムラ楽器 〜前編〜


最初に言っておく。今回は、かーなーり……「濃い」。
興味を抱いた方は、是非足を運んで欲しいと思う。
…その出会いは俺を虜にした。敬意を表して、俺は、今回の旅の記録を、前編と後編
にわけることにした。
それでは……はじめることとしよう。
今日もまた「高いギター」を求め続ける俺の話を…………。


東京の西に位置する繁華街・吉祥寺と、
東京を代表する副都心のひとつ・渋谷。
そんな二つの街を行き来する鉄道路線に、井の頭線がある。
武蔵野台地の上を走り抜ける、いたって小規模な路線だ。
昭和9年に開通され、町々の生活に密着し、人々に愛され続けている路線。
俺はそんな井の頭線が……好きだ。
全長12.7キロメートル。
総駅数17駅。

そのなかの一つに、「明大前」という名の駅がある。
その名の通り、学生街として有名な街だ。
すぐそばを走る甲州街道と京王線、井の頭線の二本の線が
まわりを囲むいたって小ぶりな街だ。

果たして、
駅と街道を繋ぐ小さな商店街にその店はある。
なんとも不思議な小さな楽器屋。

「お入りください、ひやかしでも結構」

そんな張り紙に引き寄せられて、
俺は、その店を訪ねた。
甲州街道には、まだ秋の気配が僅かしかなかった……。


明大前 ハナムラ楽器


いつものように店内を挑戦的な態度で睨みつける俺。
そんな俺の眼前に笑顔で立つひとりの男。
メガネをちょこんと頭に乗せ、布で作った自家製の草履をはき、
年齢を感じさせぬ風ぼうと、そのしゃべりが実に魅力的な男。

花村芳範。昭和12年生まれの御歳70才。
世界で一本だけのオリジナルギターを作る職人。
楽器製作の店「ハナムラ楽器」の店主だ。
陽気な小柄な男に、俺は言ってやった。

 「おい、この店で一番高いギターを持ってきてくれ」

ハナムラ・レスポール 〜法隆寺Ver.〜

ハナムラ・レスポール 〜法隆寺Ver.〜 価格 100万円ぐらい

花村「これはさー、売らないって値段ね。カッカッカッカ(笑)……
   ホンジュラスマホガニーって言う、今は伐採禁止の木で作ってんの。
   言うなればさ、“パンダのすき焼き”食べるみたいなもんでさ、
   材がないからね、すごい貴重なギターってわけ」

―― パ、パンダのすき焼きって……。まぁ意味は分かったけど。
   でも、なんだか、そのー、今まで見たことない雰囲気なんだけど、
   このギター……。

花村「ウチはさ、単板一枚板で作っているの。これ、世界でここだけ。
   嘘じゃないよ。小さい店だからできるんだけどね、ウシシシ(笑)」


―― た、単板一枚板??

花村「そう。“単板”ってのはあるのよ。でも一枚板はないよ。
   今のギターはさ、合板で、ボンドで固めちゃってさ。
   そんなのいい音が出るはずないじゃん。
   うちのは、単板一枚板、無垢の木から削り出して作るの。
   全部、手製だよ。“のみ”と“かんな”だけで削り出すんだから」


―― えっ!? これ全部!?

花村「当たり前じゃん。俺、チョー引きこもりだから、(笑)
   なんでも作っちゃうんだよ。楽しくて、楽しくて。ウッシャッシャッシャ」


―― でも、機械とか、使えば楽なんじゃ……

花村「無いも〜ん! 俺んとこには、そんなの〜。
   これをさ、機械でやるだろ、すると木の細胞が死んじゃうんだよ。わかる?
   切れない包丁でトマトを切るみたいにさ、表面の細胞が死んじゃうの。
   そしたらダメさ。
   時間をかけなきゃ、いい音なんて出ないんだよ。
   エレキギターって、どこが音を出していると思う?
   ボディーの、木の反響なんだよ。
   合板で、それも表面ツルツルにしちゃったらさ、
   反響する訳ないじゃない。
   お寺の鐘と一緒。目に見えない凹凸が生きているから、反響すんの。
   音の伸びが違うよ、マジで」

―― はぁ、なるほど。確かにそりゃそうだ。

花村「それにさ、機械でやったり、合板使ったりしたら、
   ギター自体100年持つか持たないかでしょ。たった100年だぜ。
   俺んちのは1000年でも2000年でも持つよ。
   千年ギターだよ、木造で千年持つっていえば、法隆寺だろ。
   このギターは……法隆寺と一緒!」



………………ほ、ほ、法隆寺!?

なんて、スケールのでかい話なんだ!
いやはや
俺は……今日まで、高いギターを求め続け、がむしゃらに歩んできたが、
その旅路の途中に…、まさか…、
日本仏教興隆の祖である聖徳太子が創建した寺院にして、
世界遺産にも登録される、「法隆寺」にたどりつくとは想わなかった。

果たして、
心から想う。俺は…………法隆寺をこの手で抱きたい。
あぁ、故に、
俺には……言わねばならない台詞があった。
そして、俺はそのために、この店に来たのだった。


いますぐ俺にこいつを、法隆寺を、弾かせてくれ


ハナムラ・レスポール 〜法隆寺Ver.〜

【世界遺産的スモーク・オン・ザ・ウォーター】

俺は弾く。この店で一番高いギターを弾く。
曲はもちろん決まっている……。
「スモーク・オン・ザ・ウォーター」
…………千年王国を、俺は築く。

おなじみの追記。
「平成のリッチー・ブラックモア」=「俺」だから、
JASRACお墨付きの、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」なのだ。
言っておく。
俺の稚拙なテクニックは置いといて、
是非とも音の余韻を感じて欲しい。
……寺の鐘。まさにその言葉の意味がわかるはずだから。




弾き終えて、ぼう然とする俺に花村は語り出した。

花村「どう? “おぉ! お寺の鐘〜!!”って、かんじだろ?
   ちなみに言っておくとさ、このギターは、
   草木染めなんだよ」


―― えっ! 草木染め! そんな手間のかかることやってんの!?

花村「当たり前じゃん。単板一枚板だからできるんだぜ。
   木目の印刷とかをボディーに施した、みてくれだけいいギターが
   世の中にはゴロゴロしてんだろ? ダメだよ、あんなの」


―― へー。じゃあ、この店の他のギターも草木染めなの?

花村「クックックック(笑)。興味わいた? じゃ、見る?
   いい? ↓左から、コーヒー染め。タマネギ染め。そして最後の紫のギターは、
   子供たち30人くらいで一斉に集めた紫色の花びらで染めたの」


コーヒー染めギター 玉ねぎ染めギター 紫の花染めギター

―― す、すげー……。すげーよ。

花村「うひゃひゃひゃ、すげーだろ?
   でもさ、考えてみりゃ、
   これらは、結局、ありもんの楽器だろ?
   “ギター”っていうジャンルの、
   奏法も確立したありものの“楽器”なわけ。
   こんなもん、ぜんぜん面白くねーと思うよ。
   もっと面白いもんがあるんだよ。楽器界のノーベル賞もののな」


―― え? 何ソレ?



果たして、花村が“ノーベル賞”と豪語するものは何か?
とてつもないパワーを秘める男の魅力が、明らかになる。

次週、衝撃の展開に…………震えて待て。

後編に続く!




俺が抱いたギターの現在までの総額 49,564,000円ぐらい也



取材協力:
ハナムラ楽器
東京都世田谷区松原1-38-9
TEL: 03-3322-6537
URL: http://www1.ocn.ne.jp/~hanamura/


 






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