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吉祥寺へ行こう。
自転車を飛ばして、吉祥寺へ行こう。
交差点の片隅の、嫌なやつらをからかおう。
夜中の公園で、ロケット花火でもうちあげよう。
久しぶりに、あいつらも誘ってみようか……。
カサケンも、ホシノくんも、ウッチーも、みんな元気かな。
…………あぁ、いつだって、吉祥寺は変らない。
悪いコトも、いいコトも、全部、この街で経験した。
俺の育った街…………それが吉祥寺だ。
ちっちゃな頃から、気になる店があった。
五日市街道沿いにある、黄色い看板の店。
ケツの青いガキにとっては、非常に入りづらい店だった。
自転車を飛ばしながら、鼻水垂らして、
いつも横目でチラチラと覗き見したもんだった。
女の子にもてたく、ロックを聴き始めた頃の青臭いニキビ面の俺でさえ、
その店に並ぶ古くさいギターたちが、只のギターじゃないってことは、
薄々感づいていた。
いつか……
この店に……
堂々と入れたとき、
そのときこそ、俺は大人になったと言えるんじゃないか……
そんな風にずっと思っていたんだ。
果たして、今日、
俺は大人になった。
ヴィンテージギターズさんよ。
あの日、ショーウインドウの前で、
鼻水垂らして覗いていたガキが、
ついに………………やってきましたよ。
すっかり、大人の男になった俺に、気負いなどこれっぽっちもない。
いつものように、
店内をじろりと睨みつける俺。
凄まじいまでのオーラに気づいたか、
たちふさがるひとりの男。
男の名は高野順。この店のオーナー。
79年1月から30年近くこの地に店を構える“ギター”の語り部。
そんな男に、俺は言った。積年の想いのたけをぶつけるかのように、
俺は言ってやった。
果たして、じろりと俺ににらみ返すと、男は意外なコトバを返してきた。
それは……
高野「ん?…………だったら、どっちがいい?
あんたが選べよ」
………………えっ? どっちって? に、に、二本あんの?


改めて言っておく。今回はかーなーり濃い。
そのつもりで、じっくりお読みください。
高野「ソリッドギターとして、
史上初めて市販されたものが、このフェンダーのテレキャスター。
そして、それまでは箱モノを作っていたギブソンが、
はじめてソリッドギターとして製作したのが
このレスポール。
エレキギターの歴史の中で、エポックメーキングな二本だね」
―― ほぉ。テレキャスと、レスポール……か。
でも、二本じゃな〜。こっちにも企画意図ってのがさぁ…………
高野「(無視して)そもそもギターってもんはさ、
いかに大きな音を出せるかってのを求め発展してきたんだよ。
で、あるとき、電気の力を借りる事で爆発的に、
でかい音がでるようになった。
それがエレキギターのはじまり」
―― な、なるほど。でかい音……。確かにそうだよな。
高野「そう。で、フェンダーと、ギブソン。名前くらいは知っているだろ?
もちろん、他にもメーカーはあるけど、
エレキギターってジャンルの中では
このふたつがやはり、
歴史を作ってきた部分が大きいんだよ」
―― ふんふん。
高野「そもそも今から60年くらい前にフェンダーから、
テレキャスの原形が市販されたわけ。そして、
1950年くらいから、テレキャスターというものになって、
普通に売られるようになったんだ。」
―― それが史上初めて市販されたソリッドギター……ってわけなんだね。
高野「そう。で、当時、ウエスタンスイングって、
いわゆるカントリーミュージックなんだけど、
でかい音でポップカントリーを演奏するのに、
テレキャスが、えらく話題になったんだよ。
こいつはいい! ってね。
それで既存のメーカーも、
こぞってソリッドギターを開発してきたんだけど、
ギブソンが出したのがレスポール……ってわけなんだ」
―― へー。それじゃぁ、ギブソンが真似をしたんだ。
高野「(苦笑)いやいやいや、
真似をしたってわけじゃないけどさ。
エレクトリック自体は、36年くらいだから、
ギブソンの方が早かったんだぜ。ただ、あくまでもギブソンは、
それまで箱ボディだったってわけ」
―― ほぉ、互いにフェンダーとギブソンはライバルってことか。
いろいろ、互いに……あるんだろうな。
高野「まあな(笑)。
どちらのスタッフも、相手のことは良く言わないわな。(笑)
長年のライバル関係があるからな。
でも、そのおかげでエレキギターの発展があるわけだよ。
まぁ、互いに火花散らしてやり合っている関係……ってわけだ」
……………あぁ、両雄並び立つ。
時を経て。俺の前に“ライバル”と呼ばれる二本のギターが並ぶ。
きれい事だけじゃない“闘争の歴史”が、
俺の身を震わせる。こいつらが、歴史を作ってきたんだ。
ほぼ、同時期、そしてほぼ同額の……
テレキャスターと、レスポール。
果たして……
今や、かの江川と小林が互いに酒を酌み交わす時代だ。
ライバルの饗宴を……期待したいじゃないか。
一本に絞る必要などないじゃないか。
江川がいたから小林がいた。フェンダーがいたから、ギブソンがいたんだ。
果たして、俺には言わねばならない台詞があった。
なぜなら、そのためにこの店にきたのだから……。


俺は弾く。この店で一番高いギターを二本も弾く。
巨人と阪神、猪木と馬場、フェンダーとギブソン……
果たしてこの俺が、両雄を見事並び立たせてみせるさ。
ライバル同士の確執を、俺が氷解させてみせるさ。
曲はもちろん決まっている……。
「スモーク・オン・ザ・ウォーター」
…………エレキギターの歴史を背負って。
おなじみの追記。
「平成のリッチー・ブラックモア」=「吉祥寺のリッチー」=「俺」。
そんな俺のプレイのためだけに、使用許可申請を
JASRACに出してある。
JASRACお墨付きの、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」だ。
計1,280万円のサウンドを…………聴いて欲しい。
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最後に
俺は高野に聞いた。
―― ところであんたがガツーンと来た曲は?
高野「B.Bキング。18くらいかな、聴いたのは……」
―― 実にいい。実にすばらしい。
……と、いつもならここで終了となる訳だが今回はさらに続くのだった。
果たして俺は高野に別れを告げ店を出ようとした瞬間、
重厚な一本のギターを奥に見た。
全身金属製のボディーが、艶めかしく俺を誘う。鈍い輝き。
歴史の重さを感じさせる一本。どこか異端の香り漂う鋼鉄のたたずまい。
これはなんだ!?
俺は…………高野に尋ねた。
―― おい、ちょっと番外編になるのだが、このギターはいったい、なんなんだ?
果たして、高野は語り出した。
高野「ナショナルってとこのギターだよ。1930年ちょうどくらいのモノだね。
金属製のボディが珍しいだろ? だいたい90万円くらいかな?」
―― そんな古いギターなんだ。これも“歴史的逸話”が、いかにもありそうだな。
高野「(笑)俺はさっきさ、
“大きな音を求めて発展してきた”のが、ギターの歴史って話したろ。
その流れで、エレキギターってもんが生まれたんだが、
こいつはね、
エレキじゃなくて、一番大きな音を出せるシステムのギターなんだよ」
―― えっ!? ってことは、まさにエレキが生まれる前の、
黎明期のギターって言えるものなのかしらん?
高野「そう。
そもそもさ、当時は、
“大きい音が出せる人”が、たくさん人を集められたわけだ。
だから、有名なミュージシャンは、
こぞって、でかい音を出せる楽器を求めたんだ。
言いすぎじゃなく、楽器の歴史ってのは、
大きな音を求める歴史なんだな」
―― へー。
……………………エレキを使わずに、一番大きい音が出せるシステム。
果たして、俺はその音を無性に聞いてみたくなった。
だから俺は言った。
そんな台詞を言うために、この店に来たわけじゃないけど、
俺は…………高野に言った。

高野は弾く。エレキを使わずに一番でかい音のギターを弾く。
俺のたっての願いに、
ギターの歴史の語り部が……弾いてくれる。
俺がちっちゃな頃から憧れたヴィンテージギターズ。
その店のオーナーのサウンドを…………聴いて欲しい。
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俺の旅はまだまだ続く…………
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