| |
国道16号線になんとなく異国の風が混じり出せば……。そこはもう福生。
59年型、ピンクのキャデラック・コンバーチブルを走らせる、俺。
V8エンジンならではの乾ききった連続音が軽快なリズムを刻む。
……心地よい。
オープンカー特有の巻き込むような風が俺の顔をなでていき、
見上げれば、異国の輸送機が青い空を切り裂いて飛んでいる。
空は、まるで街全体を包み込むようで……青かった。
なんというか……
それは透き通る様な存在で、“限りなく透明に近い”……ブルーだったのだ。
ベトナムも学生運動もフラワームーヴメントももはやなかった。
基地の南側沿いの国道16号線の近く、
横田基地12番ゲートを過ぎたあたりにようやく、
かつての福生の代名詞“ハウス”がポツポツと姿を現す。
ずいぶん少なくなったものだ。
金網のむこうはアメリカで、こっちは日本。それは昔から変らない。
基地のある街は、いつだって独特の乱雑さで俺を迎える。
俺は……この乱雑さが好きだ。
果たして、基地を背に駅に向かえばその店はある。
楽器工房 Cat Rock。
いつものごとき眼光の鋭さで、俺は睨みつけながら店に入る。
当然、立ちふさがるひとりの男。
名は大崎隆。
……………………俺はそいつに言った。

大崎「高いですよね(笑)。
こういうのって値段があってないようなもんなんで……。
まぁ、この価格は妥当な方だと思いますが(笑)。
今ね、モノがないんですよ、世界的に見ても……ね」
―― なるほど。……しかし、ホントにヴィンテージの値段設定は、
わからないよな。
大崎「ここ2〜3ヶ月で値段がまた急激に変動してきているんですよ。
今年の春くらいまではヴィンテージを扱うお店でも
値段をちゃんと出してたんですが、
今はいわゆる“ask”になってるトコロ多いと思いますよ。
実はね……
ちょっとした理由があるんです」
―― むむ! その理由とは?
大崎「今ね、ヨーロッパが熱いんですよ」
―― えっ? 何が?
大崎「いや、今、すごい勢いでヨーロッパの楽器屋さんとかが、
古いギターを世界的に買い付けているんです。
過熱しているんです、ヨーロッパで……」
―― ほお。じゃあ、その流れで日本やアメリカのギターが、
高騰しだしてるってこと? でも、なんで今さらヨーロッパが熱いんだろ?
大崎「考えてみてください。
ロックという音楽が生まれて100年たちます。
電気サウンドが生まれて100年ですよ。で、気がつくと、
今や、すっかりアメリカの音楽になってるんです。ロックってものが…。
ビートルズ、クラプトン然り、ヨーロッパ勢がみんな
アメリカに出ていってしまった。メーカーもそうですよ。
ギブソン、マーティン…等、全部アメリカに行っちゃった。
実際に、イギリスにはあまり楽器店が街にないんですよ。
ちなみにクラブシーンはヨーロッパが今、最高ですよね。
だから、PA、オーディオ機器は充実しているんです。リズム系。
だけど……、気づけば楽器がない。“いい”楽器がない。
残っていないし、お店もない……と」
―― なるほど。
大崎「で、ロック発祥の地として、
今、“でかい楽器店”を作ろうとしてるんです。
だから、今でも残っている古くて程度のいいモノをごっそりと、
買い集めているんですよ。
“もう一度もどそう!”“そもそも我々の音楽じゃないか!”って(笑)。
ヴィンテージって、当然数に限りがあるじゃないですか。
まあ、バブルの影響もあるんですが、
比較的、日本にいいモノが集まっていました。アメリカは当然として、
日本とアメリカにほとんどが現存し、ヨーロッパにはなかった。
ココだけの話、大手のヨーロッパメーカーのオーナーが、
最近も買い付けに日本に実際に来ていましたよ(笑)」
―― わ、分かりやすい説明……ありがとう。
面白いな、あんたの話。しかし、相当事情にも詳しそうだ。
大崎「(笑)。
実は僕自身、大手の楽器業界に30年くらいいましてね、
まさにバブルのときにもいたんですが。
その頃は、いろいろと、浮き沈みも見てきましたよ。
色々、見てきて……
結局、自分でやっちゃえ!ってお店をはじめたわけですね、ここ福生で」
―― なるほど。詳しいわけだ。……じゃあ、長年見続けてきたあんたに聞くけど
最近、楽器屋さんに人がいないよね。特に、若い人がさ。
なんでなんだろ?
大崎「それ……ねぇ(苦笑)。
それも、明確に答えちゃいますよ(笑)。
一番の理由は…………携帯電話」
―― えっ? 携帯電話?
大崎「そう。お金がないんですよ。楽器に使うお金がないんです。
はじめて楽器を自分で買うのって、高校生とかだったでしょ?
昔はバイトして、お金貯めて買ったりしましたよね。
お小遣いだったりも、もちろんしましたけど……。
ただね、
今の高校生も、ひと月に使えるお金の額は昔とそう変らないです。
で、昔は楽器にいった。だけど今は何も買わなくたって、
月々携帯の電話料金がかかる。……でしょ?」
―― ホントだ。目からうろこ。そりゃ、買わないよね。
大崎「元々、楽器を買う理由なんて“女の子にモテたい”からだったでしょ?
でも今は、携帯とカラオケになっちゃったんです。
今、楽器を買うのは大人ですよ。いわゆる団塊の世代。
車もある、家もある、退職金が出て余剰のお金がある。
じゃあ、何に使うかっていえば、
健康に使う、孫に使う、そして趣味に使う。
趣味…………その中に楽器があるんです。
“そういえば、昔から欲しかった”。
いいモノを一品買う…、そういう買い方をしたいと考えるわけです。
それはひいていえば、ヨーロッパでもアメリカでも同じ現象が、
起きていると言えますよね。
ある程度、お金がある“大人”が、
青春時代にもっとも影響を受けたものは何か……?
それがギターなんです」
……………なんともワールドワイドな話。
さらには、熱い60年代70年代を駈け抜けた“かつての若者たち”の存在。
今のヨーロッパでのヴィンテージ熱も、
そう考えれば合点が行くはず。
ロック……
エレクトリックギター……
フラワームーブメント……
ベトナム戦争……
あぁ
まさに彼らこそ、ここ“福生”と共に歩んできた世代じゃないか。
彼らが、自分たちの人生を、
振り返る時代になってきたのだろうか。
60年代、70年代。
アノ頃は確かに“若者”の時代だった。世界的に見ても“反抗”の時代だった。
だからこそ、そこに文学が生まれた、ロックが生き生きと存在しえた。
だけど……俺は想うんだ。本気で想うんだ。
振り返るだけじゃだめだ。
その精神性こそ、今、必要なんじゃないかって。
俺は言いたい。この地で言いたい。そして全世界に言いたい。
若者に告ぐ、かつての若者にも告ぐ。
“今こそ銃を捨てよ、そしてギターを持て”……と。
果たして、俺には言わねばならない台詞があった。
なぜなら、そのためにこの店にきたのだから……。


俺は弾く。この店で一番高いギターを弾く。
曲はもちろん
「スモーク・オン・ザ・ウォーター」
…………限りなく透明に近い演奏を心がけます。
おなじみの追記。
「平成のリッチー・ブラックモア」=「三鷹のリッチー」=「俺」。
そんな俺のプレイのためだけに、使用許可申請をJASRACに出してある。
JASRACお墨付きの、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」だ。
380万円のサウンドを…………聴いて欲しい。
俺は黒い鳥を見る。
|
最後に
俺は大崎に聞いた。
―― ところであんたがガツーンと来たバンド、もしくは曲は?
大崎「加藤和彦さんのマーティンD45の音色を聴いて……
いやぁ、今でも忘れられないですね」
―― なるほど、実にいい。実にすばらしい。
そういえば、「だいじょうぶマイフレンド」も作ってたな。
さて、
果たして、なぜだか村上龍が無性に読みたくなる今回ではあったが、
最後に少々珍しい楽器をおまけとして紹介する。

オールをモチーフにしたウクレレだそうだ。
お店の入り口に飾られていて、とっても素敵でした。
俺の旅はまだまだ続く…………
■■■■■■■■■■■■
|
|
|