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この世には神の領域が、ある。
触れるのに躊躇する領域が……ある。
俺は“それ”に………………迷わず触れる男だ。
もしも俺が神に出会う日がきたら、
きっと迷わず聞くだろう。
「あんた……本当に神様かい?」ってね。
果たしてここは、そんなタフなコーナーなのである。
渋谷の街にジャズが流れる。
12月の空気が、
行き交う人々の喧騒と適度に交じり合い、
街は、実に独特なる季節感を醸し出す。
空を見上げれば、
つめたく冷えた月がひっそりと浮かび、俺だけを見つめている。
そんな夜。
渋谷の街にジャズは流れる。
いまはもう取り壊され、
なくなってしまった映画館とプラネタリウム。
そんな真新しい“遺跡”を横目に進めば、その店はある。
アーチトップギター……いわゆる箱ものギターを専門に扱う店。
その名も……ウォーキン。
実はこの店。
横浜で開催された「2007プレミアムギターショウ」に、
参加していた店でもある。
横浜で、“狙いをつけて”きた俺が、直接店に足を運んだってわけだ。
果たして……。
並々ならぬ俺の殺気にざわめく店内。
一人の男が立ちふさがる。
そいつの名は……西村真樹。
俺は言った。
男は言った。
西村「……わかりました。
別の場所に保管してあるので、しばらくお待ちいただけますか?」
……“別の場所に保管”。
実にプレミアムなギターへの“フラグ”立ちまくり。
待つこと10分……
西村は現れた。
西村「二本ともダキストのギターです」
―― うん。なるほど。……って、ちょっと待てよ。
“二本とも”……って何よ。だめだよ。
それに“非売品”じゃん、これ。
こっちにも企画の趣旨がさぁ…………。
西村「(無視して)まずはNew Yorker Deluxe 7-stringからご説明しましょう。
そもそもダキストはご存知ですか?」
―― えっ? いえ……。
西村「95年まで存命していたギター職人さんです。
亡くなる前にはフェンダーとコラボレーションしたりしてましたが、
個人で活動されていた職人さんです。
ダキストさんは、師匠のディアンジェリコさん(D’Anjelico)とともに、
アーチトップのギター製作者の中でもトップ中のトップなんですよ。
デザインが秀逸です」
―― へー……。そ、そんなにすごいんだ。
西村「後の、製作家に与えた影響は計り知れない方なんです。」
―― はぁ……。
西村「実は今、ダキストと言うと、色々ありまして、
ご本人が亡くなられてからは、
日本のブランドとして作られているんですよ。
ところがこれ、New Yorker Deluxe 7-stringは、
オリジナル。非常に珍しい一本です、ニューヨーカー、7弦使用……」
―― 7弦……とな。ほぉ。
…………で、これ非売品にするぐらい希少なの?
西村「6万ドルと言えば、6万ドル。
10万ドルと言えば、10万ドル。
世界に二本しか作られていない、超希少モデルですね。
そもそも、ダキストは名だたるジャズミュージシャンに、
愛されてきたのですが、数が少ないんです。
まぁ。神様の作ったギターってかんじですかね?」
―― す、すごいギターってわけだ。……で、こっちのジム・ホールのは……
西村「はい。これも、もう……すごいですよ」
―― は、はい。こ、こっちも……。
西村「ジム・ホールさんは、ジャズギタリストとしては、
生き神様です(笑)
現代ジャズギター界の巨匠です。
御歳77才くらい……じゃないかな?
そのご本人が所有していた逸品です。
七十年代後期から、八十年前後に、
彼が実際メインギターに使っていた物です」
―― ……えっ! 実際の……、ほ、ホンモノ?
西村「はい。…………そりゃ、非売品にもしますよね(笑)」
……………おい。
……………ちょっと待ってくれ。
「あんた神様かい?」と、問い掛ければ、
俺の目の前の二本のジャズギターは答えるだろう。
「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」……と。
あぁ、
もしかして、俺はものすごいことをしようとしていないだろうか?
全世界のジャズファンを、
敵に回すようなことをしようとしてないだろうか?
だが、しかし。
たとえ全世界を敵に回しても、
俺には言わねばならない言葉があった。
なぜなら、そのためにこの店にきたのだから……。

俺は弾く。この店で一番高いギターを弾く。
曲はもちろん決まっている……。
「スモーク・オン・ザ・ウォーター」
…………とんでもねえ神様を弾く。
おなじみの追記。
「平成のリッチー・ブラックモア」=「三鷹のリッチー」=「俺」。
そんな俺のプレイのためだけに、使用許可申請をJASRACに出してある。
JASRACお墨付きの、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」だ。
非売品のジャジーな調べをお楽しみください。
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―― ところであんたがガツーンと来た曲は?
西村「うちの店、ウォーキンと言いますが、
ギタリストじゃないんで、あれですけど(笑)…………
もちろんマイルス・デイヴィスのウォーキンです」
―― いい。実にすばらしい。
しかし…………あんた、話しやすいな。
ジャズって言うとちょっと敷居が高そうなかんじもあったけど。
西村「(笑)そうなんですよ。その敷居の高さを取り払いたいな、と思い
やってます」
―― ……ジャズの魅力って何?
西村「固くならずに聴いて欲しいですね。
難しく考えすぎちゃうと、楽しくないじゃないですか。
語弊があるかもしれないけど、
ジャズって、そもそも何をしたっていーわけですから。
好きに、楽しんでいい音楽なんですよ」
―― なるほど。なんだか、無性にジャズが聴きたくなってきたよ。
今夜は……ありがとう。
果たして、
渋谷にジャズは流れていた。
その夜の話。
俺は…………あてもなく国道246を青山方面に歩いた。
Whole Lotta Jazz.……胸いっぱいのジャズが俺を支配していた。
つめたく冷えた月は、どこまでも俺に着いてきていたんだ。
気づけば、
青山にある、有名なジャズレストランの前に俺は立っていた。
ブルーノート東京。
実に敷居の高い場所だ。
今夜は、ギタリスト、デヴィッドT・ウォーカー。
実にいいギタリストだ。
俺は……歩を進めた。
今夜ジム・ホールのギターを抱いた俺が、
その日にMr.デヴィッドTのライブを観る。
あぁ、実にイカシているじゃないか。
果たして、東京の夜は…………実にジャズが似合う夜だ。
それにしても、
まったく、
こいつも高そうなギターだぜ。
俺の旅は…………まだまだ続く。
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