| |
果たして
ヒゲオヤジも、ピョン吉も、銭形平次も、
みんな神田の生まれなんだった。
さてさて……。
今回は、まったくもって個人的な話からしちゃう。
俺には俗に言う、“田舎”ってもんがない。
親戚筋もなにもかも、皆、東京だったから、
お盆にしたって正月にしたって、“帰省”って経験がない。
強いて言えば、本家に泊まりに行くぐらいだった。
果たして
うちの本家は、神田鎌倉町……内神田で商いをしていた。
時は経ち、本家の家も引き払い、今じゃ、
俺自身、明神に初詣でに来るくらいで、
昔に比べて神田の街とも随分、疎遠になっていた。
けど……、やっぱり……
久しぶりに訪れれば、己の“血”が騒ぐってぇわけだ。
…………つまり、“江戸っ子”の血が。
俺にとっては
“隣町”の、JR高架下に、その店はあった。
………………店?
いや、違う。
そこは、……ミュージアム。
ロックの歴史が詰まった……ミュージアムだった。
ギター職人、トニー・ゼマティスの作り出した“芸術品”の数々が、
展示されている…………素敵なミュージアム。
レンガの外壁と、クラシックな内装……。
行ったことはないけれど、
まるでロンドンにでもありそうなパブ……といった佇まい。
果たして……併設するショップには、
“新しい”ゼマティス・ギターたちも並ぶ。
並々ならぬ俺の殺気に、
一人の男が眼前に立ちふさがる。
そいつの名は……飯泉浩。
俺は言った。
飯泉「一本だけのモデルです」
―― あっ……これ、オンリーワン?
飯泉「(苦笑)……はい、オンリーワンですね。
名前見てもらっていいですか?
S22st GOLD+Z……って。
ちなみに“+Z”がついていないモデルはあるんですよ。
210万円です(笑)
で、こちらの“Z”の文字。貝細工でできるかな〜って思って、
トライしたのが……コレなんです」
―― ほぉ……。
飯泉「マザー オブ パールって言うんですけど、
真珠の母貝です。
厚さが1ミリから2ミリくらいなんですけども、
作る方は大変で、ホント、粉だらけになるんですよ。
貝って湾曲しているでしょ。それを平面がでるまで削るんですね」
―― なるほどー。
飯泉「普通は白いんですよ。
で、これは宝石屋さんが言ってたんですけど、
数十枚に1枚、タンパクが混ざって、
黄色っぽくなるらしいんですね。
そういう部分だけ集めてつくったモデルなんです」
―― んむむ……こりゃまた、手が込んでるものなんだねー。
飯泉「ゼマティスギターの特徴としては
美術品とも言える“美しさ”を持つ点があげられますね。
彫金が有名です。
ゼマティスさんは、残念ながら、
2002年に亡くなられてしまったんですが、
その“魂”を引き継ぎ、
言わば“ニュー”ゼマティスとして、うちで作り続けているんです」
いやはや……………
飯泉の丁寧な説明を聞きながらも、
俺は、このギターの“美しさ”に魅了されていた。
職人の匠が為せる、極致の美。
俺は、言わねばならぬ台詞があった。
そのために、この店に来たのだから。
果たしてギターは…………答えた。
「弾きねぇ、弾きねぇ、
もっとこっちへ寄んねえ,江戸っ子だってねえ」
―― おう……………
神田の生まれよ。

俺は弾く。この店で一番高いギターを弾く。
曲はもちろん決まっている……。
「スモーク・オン・ザ・ウォーター」
…………ちゃきちゃきに弾いてやろうってんだっ。
おなじみの追記。
「平成のリッチー・ブラックモア」=「三鷹のリッチー」=「俺」。
そんな俺のプレイのためだけに、使用許可申請をJASRACに出してある。
JASRACお墨付きの、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」だ。
|
―― ところでさ、
さっきから、無性に気になるんだけど……
何、このBARカウンターとか、車とか……。
興味津々なんだけど……俺。
飯泉「いやあ〜、実はこの車も、
ゼマティスさんが所有していた車なんです。
ご自分でいじられたものなんですよ。
車もハンドメイド(笑)。それを飾ってます。
BARですか?(笑)
うーん。
じゃあ、せっかくなんで、
そこで……少し、職人トニー・ゼマティスの話でもしましょうか?」
果たして…………俺は………………乗った。
居心地のよい、ミュージアムの空気が、
俺のタフな心を、
少しだけ和らげてくれたのかもしれない。
俺は、
カウンターに座り、
グラスに注がれた、琥珀色の液体をかざした。
カランコロン。
……グラスの氷が心地よい音をたてる。
タフな俺の、
いっときの休息。
やがて、
男は…………俺に話し出した。
天才ギター職人の話を……。
次回につづく。
(注:ちょっと野暮ったいのですが、一応、明記しておきます。
残念ながらBARとしては営業していません。
あくまでも……フィクションです)
■■■■■■■■■■■■
|
|
|