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神田、JR高架下に、そのミュージアムはある。
“職人”ゼマティスの歴史を刻む、レンガ造りの“隠れ家”。
そこの……BARカウンターで。
…………タフな俺が座らぬわけにはいくまい。
目の前の、カウンター内には一人の男が立つ。
…………飯泉浩。
俺に、“この店で一番高いギター”を差し出した男だ。
果たして、先ほどまでとは打って変わり、
すっかりと、
マスター然とした振る舞いになる飯泉。
まったく……付き合いのいい男だ。
俺のグラスに琥珀色の液体を注ぐ。
カランコロン……グラスの氷が音をたてた。
俺は、そいつを一気に飲み干し、
男に言う。
飯泉「元々は腕のいい家具職人だったっそうです。
で、ギターが欲しかったけど、
高いんで(苦笑)、自分で作ってみよう……と。
試行錯誤で5年くらいして、
それをお店に出したところ、
ミュージシャン達に、注目されたわけです。
ジョージ・ハリスンさんや、クラプトンさん、
ジミヘンさん、ロンウッドさん、とか……」
―― へー、最初からギター職人じゃないんだ。
それじゃ、ギター専門の勉強したわけでもないんだね。
しかし、そうそうたる面子に気に入られたんだ。
飯泉「ええ、まぁそこがゼマティスの凄いところですよね。
独学で、自分で作っちゃって、
それが素晴らしい逸品なんですから……。
天才ですよね。
はじめはアコギを作っていたんですが…………。
ちなみに
“Ivan the terribleイヴァン・ザ・テリブル”と
呼ばれるギターをご存知ですか?」
―― いや……知りません。
飯泉「(笑)クラプトンさんが持つ、
伝説的なアコースティックギターなんですが……。
ゼマティスが作ったギターとして有名です。
クラプトンさんは奥さんと喧嘩しまして……。
激怒した奥さんが、
なんと、そのギターをぶち壊したんですよ。
壊されたギターをゼマティスが、直した……なんて話もあります
なんでも、オークションで3000万円以上の値がついたとかって
話ですよ」
…………いやはや、
“Ivan the terribleイヴァン・ザ・テリブル”。
いつかこの手で、抱きしめたい逸品じゃないか。
果たして
イヴァン・ザ・テリブルとは……
それはかの有名な、“イワン雷帝”のことを指す。
残虐で、冷酷で有名であった、ロシアの皇帝……イワン4世。
…………奥さんの雷のごとき“怒り”は恐ろしい。
その名のついた“ギター”……素敵だ。
飯泉「はじめは、アコギを作っていたんですが、
10年くらいして、ロンウッドさんに頼まれて、
エレキギターを作ったそうなんです。
ちなみに、このミュージアムには、
ゼマティスが、試行錯誤して作った“はじめて”のエレキギターと、
2000年に作った“最後”のエレキギターが展示されているんですよ」
―― おぉ、凄い。
飯泉「最初のギターは、ゲーリー・グラインガーさんっていう、
ロッド・スチュアートさんのバンドでギターを弾いていた人が
持っていたようですね。
最後のギターは、
オーストラリアのコレクターさんが持っていたらしいですよ。
あっ……ちなみに、
これで“スモーク・オン・ザ・ウォーター”弾かないでください(笑)」
―― は…………はい。(苦笑)
いやはや……………
つぎからつぎへと
飯泉による興味深い話はつづく。
スペースの都合上、あまりに長くなるので割愛するが、
様々な展示物が俺を虜にする。
例えば……
こちら。
彫金ギターの数々。
ダニー・オブライエンさんという職人さんが、
数多くのゼマティスのギターに彫金を施したという。
彼なくしては、“ゼマティスギター”の、
まさに大きな特徴を語れない。
こちら
ロン・ウッドさん、ボンジョヴィさん、エアロスミスさん、
キースさんが使っていた実際のギター。
ちなみに、キースさんのは5弦ギター。キースさんは、
“ニュー・ゼマティス”もお気に入りで、ストーンズでも、
バリバリ使っている。
……などなど。
飯泉「ゼマティスは、
自分もプレイヤーだったから、細かいところまでよくできているんです。
実際、腕前はかなりのものだったらしいですよ。
彼は、ギターを作るとき、
そのプレイヤーの、手形、体格まで聞いて、
その人に合った一本を作ったんです。
一人のミュージシャンに“いっぽん”。
言うなれば……「作った本数だけモデルがある」ってことでしょうか」
あぁ、それはまさに、ゼマティスの職人魂の為せる業か。
真摯にものづくりにこだわった、職人ならではのこだわり。
作った本数だけある“モデル”。
実に、究極のいっぽんだ。
ところで……
俺には、さっきから聞きたいことがあった。
このカウンターで、
とてつもなく気になっていることがあった。
果たして、それは……。

俺は飲む。この店で一番高いウィスキーを飲む。
銘柄はもちろん決まっている……。
「ゼマティス・シングル・モルト・ウィスキー」
………………
………………って、どーいうことよ??
「平成のリッチー・ブラックモア」=「三鷹のリッチー」=「俺」。
そんな俺も驚く
ゼマティスお墨付きの、「ウィスキー」だ。
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飯泉「(苦笑)……いやいや、売り物でもなんでもないんですが。
実はコレ、作ったんですよ。
実際に、樽で買いまして、ラベルも自分たちで作って、
ホンモノのウィスキーです(笑)。
あくまでも……洒落ですけど(笑)
美味しいんですよ、ホントに。
ここだけの話、たまに、関係者で飲んでるんです」
―― ほぉー、面白いことしてるねー。
なんだか、めちゃめちゃ、ここ、居心地がいいよ。
飯泉「好きなだけ、いてください(笑)。
遊び心満載の場所ですから……」
―― ありがとう。ところで、アンタに最後に聞くけど、
アンタのはじめてガツンときた一曲を教えてくれ。
飯泉「ストーンズ狂なんで、ジャンピング ジャック フラッシュかな?」
―― なるほど、実にいい曲だ。それじゃ、そろそろ俺は、
おいとましようかな。……ゼマティスウイスキー
…………ごちそうさん。
飯泉「あっ、ちょっとお待ちを……。
まだまだ、高いギターを探していくんですよね?
―― あぁ、そうだけど……。
飯泉「実は、お茶の水に、かなり“変わり者”の、
面白いおじさんがいるんですけど……、
その店、行ってみます?
気は合うと思うけど……、電話しておきましょうか?」
…………もちろん……だ。
果たして、俺は、次週、お茶の水「楽器センター 東京」へ、
“面白いおじさん”と高いギターに逢いに行くこととなった。
次週……いってもいいかな?
俺は心の中でそっとつぶやいた
………………いいとも。
高いギターは買えなかったけど、
俺が思わず買ってしまったミュージアムのお土産品。
楽しいので、みなさんも是非、行って見てくださいネ。
果たして
俺の旅は…………まだまだ続く。
(注:野暮ったい上に繰り返しになりますが、一応、明記しておきます。
残念ながらBARとしては営業していません。
あくまでも……フィクションです)
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